スーパー・スター・フォー・ア・デイ
2008年05月05日 箸本‘husky’竜也
塾長チームと望月先生チーム(僕はこっち)に分かれて、火花を散らす、というほどでもないが、真剣勝負。
開拓塾は、真剣に遊ぶ。そこがいいね。
はたして誰がどんな活躍をしたのか?
今日はそれを見ていきましょう。
塾長チームのプレイング・マネージャーには、もちろん塾長・岡田竜馬。年齢を感じさせない(すみません)華麗な動きで、サードの打球をさばきまくる。右へ左へセンターへ、広角打法で打ちまくる。そして、相手のリリーフ・ピッチャー増田先生を挑発しまくる。
「よく見てけよ、増田君ストライク入らないから」って大声で塾長!
それに動揺してかコントロールを乱しつつも、満塁になってからはきっちり三振にしとめた増田先生。
相変わらず、私服姿は永遠の十代。
何をやっても活躍してしまう、運動神経抜群の広田先生。今日もイタリア人のような長い足で縦横無尽に走りまくる。
スポーツ・ドリンクを飲む姿が似合わない。やはり、この人にはカプチーノ。
噂の「長神打法」の持ち主は長神先生。「長神打法っていったい何なの?」と聞かれると誰もうまく答えられない。その意味不明さがいい。
僕としては、以前ゴルフをしたときのように、日焼け止めを塗りたくったマイケル・ジャクソンのような顔が見たかったが、今回は残念ながらナチュラルでした。
打席に入っただけで何か凄い打球が来そうな気配があるのは、野球をやってたわけでもないのに「蒲郡の大砲」の異名をとる杉林先生。あの異様な肩幅。爽やかにプレーしてるのに、何かにつけて尋常ではないパワーを感じさせる。さすがはガマの大砲。
塾長の「ボールをよく見ろ」という指示を忠実に守って、見逃し三振でベンチに帰った吉田先生。いくら何でも見すぎなんじゃ……。
バッティング・センス抜群の夏目先生。夏目先生は長時間太陽にさらされると体が溶けてしまう特異体質だが、この日もフラフラになりながらヒットを放った。
塾長チームのエースは小田先生。パイレーツ・オブ・カリビアンのジョニー・デップのような布を頭に巻きつけ、自慢の速球を投げまくる。速すぎ。
グラウンドにきらめくギラッギラの笑顔。今日の小田先生は輝いていた。
僕らのチームのキャプテンは望月先生。相変わらず、四月の風のような爽やかさ。
打席でライトの小杉先生に「小杉君、いくでね!」と打球の方向を予告。そして真逆の三遊間に打球を飛ばし、「えへへへへへ」と笑う姿がまた爽やか。
ソフトになると並々ならぬ気合をみなぎらせるのはエース・松岡先生。一人だけユニフォームで登場するところから、半端じゃないファイトを感じる。
剛速球にパワフルな打球。そして、どこかからグラウンドに流れてきたサンバのリズムに合わせて守備の最中にステップを踏む。頼むぞエース。
何でそんなことができるんだ、スイッチ・ヒッターの小宮先生。しかも右打席・左打席を気分で決めているような雰囲気。何だそりゃ。
そのパワーもさることながら、とにかく足が速すぎる。打った後に一塁へと駆けてゆくスピードは、同じ人類とは思えない。
意外にもソフトはわりと苦手な建部先生。それでも、その長身を生かして一塁への送球を取りまくる。
たとえチャンスで凡退しても、「武器を使うスポーツは駄目だ」という言い訳に妙に納得してしまう。そのへんはさすがベッカム。
打席に入る姿が異様にカッコいいのは、紅林先生。プロ野球の一流プレイヤーっていうのは、みんな「それっぽい」フォームを持ってるでしょう?紅林先生の打席への入り方は、まことにそれっぽい。素晴らしいそれっぽさだ。そして期待どおりの先制タイムリー。さすがは「豊川の白い稲妻」。というのは僕が今つけた異名。
そして、この日絶好調だったのがカトゥーンこと加藤先生。いやー凄かった。第一打席でいきなりホームランをかっ飛ばすは、守備シフトに合わせて絶妙な方向に打球を放つは、わけのわからない投球フォームで相手をかく乱するは、長神先生の打った火の出るようなピッチャー・ライナーをスーパー・キャッチするは。また、それをキャッチした後の「このくらい普通だぜ」みたいなうさん臭さがカッコいい。そのへんはさすがカトゥーン。
そして、何だかんだいってこの男がMVP。相手チームだけど。
モリオである。
以前「バーサス・モリオ」でも書いたから、あまり詳しくは語らないが、こんな奴なかなかいないぞ。凄すぎる。これはちょっと、どうにもならない。
子どもの頃、どこの中学にも一人くらいはいたんだ、圧倒的な存在っていうのが。球技大会の日に、スーパー・スターになっちゃうような奴が。
年齢を重ね、大人になるにつれて、普通の人間っていうのは、そういう「一日だけのスーパー・スター」みたいなものになれる機会を失ってゆく。井の中の蛙が大海を知って、小さくなってゆくものだ。で、僕たちがスーパー・スターを見られるのは、テレビの中だけになってゆく。
しかし、この日のモリオ君は問答無用のスーパー・スターだった。
彼は何度も美しい打球を飛ばし、ホーム・ベースを駆け抜けた。大人になってしまった僕たちが永遠に追いつけない輝きを見せつけながら。
まあ、テニスでは負けねえけどな。
という捨て台詞とともに、アディオス!
アフター・フェスタ、イン・ザ・パーク
2008年04月04日 箸本‘husky’竜也
夜明けの多賀のサービス・エリア、車の中でタオルケットにくるまって眠り、九時に目覚めて、また高速を飛ばす。
京都東のインターチェンジで降り、北大路に出て高野までいっきに走り、四年を過ごしたアパートのすぐ傍の公園を訪れた。
僕は公園が好きで、特に大学の頃は、近所の公園を夜な夜な散歩したものだ。
この公園を最初に訪れたとき、僕は一人暮らしを始めたばかりの十九歳だった。
木のベンチに座り、遠くで遊ぶ親子連れをぼんやり眺めながら煙草を吸っていると、不意に、時間が戻った。
僕はいつの間にか……金はまるでなく、しかし時間だけは腐って捨ててもまだ余るほどあり、愛も恋も掛け値なしに温かく輝いていて、友は永遠で、未来には雲ひとつなく、あったとしても自分たちなら必ず、スターをとった無敵のマリオみたいに全てを蹴散らして進んでゆけるに違いないと信じていられた、二十二の頃を思い出していた。
カツオばかり食べていた春の頃。
ちょっとできすぎじゃないのってくらい幸せで、だから……散ってゆく桜みたいに儚い感じがして、それが少し、怖かった。
僕の社会人一年目、大切な友達が、電話の向こうで冗談めかして言った、でもきっと、何より切実だったに違いないはずの言葉が、よぎった。
「学生時代に戻りたい」と。
瞬間、風が音を立てて過ぎ、名前のわからない木々の枝を小さく揺らした。
春が来ていて、正体のわからない花粉が両の目をくすぐり続けていた。
僕は全ての虚勢と全ての偏見を取っ払って、ただ単純に、偽りのない答えを自分に求めた。
「戻りたいかい?」
「ノー」。
子どもが勢いよく蹴り上げたボールが僕の足元まで転がってきて、僕は下手で投げて返した。背の高い母親が、僕に小さく頭を下げた。
俺は何をやってるんだろうな。
阿呆みたいに夢中で伝えようと授業して、ライブで子どもみたいに叫んで飛び回って、無茶な身体を抱えて京都なんかに来て、何をするでもなく、ただ、思い出してる。
微熱が下がらない額に手を当てて、ちょっと笑った。
塾長がときどき冗談めかして優しく言ってくれるように、箸本君はきっと頭がおかしいんだろう。
でも、現在を愛してる。
あのとき、君の声を聞いているのがつらかった。
長いこと、会ってないね。
今でも、思うんだろうか。
戻りたいと。帰りたいと。美しいものは、取り戻せない世界の中にあると。
……そんなふうに考えちゃいけない。
僕は新しい煙草に火をつけて、魔法のように流れてゆく煙を目で追い、ベンチから立ち上がった。
空は晴れ渡り、子どもたちの未来は無限に開かれ、親たちはみな柔らかく微笑んで、学生たちは永遠に若く、この世に不幸などあってはならないと錯覚させられるような、静かな三月の木曜日だった。
言わずの約束
2008年03月22日 箸本‘husky’竜也
君にひとつ、約束をした。
「俺、あなたの国語の内申、5に戻すから」。
君は「うん」と言った。
君の「はい」を一度も聞いたことがない。「いいえ」も「ううん」もほとんど聞いたことがない。
あなたの返事は、楽しかった。
いつだって、「うん」か「うーん……」のどちらか。
テスト前は、いつも。
「あなたは大丈夫でしょ」
「うん」
「俺、このシャツけっこう気に入ってるんだけど。いや相当似合ってると思うんだけど。どうなの」
「うーん……」
入試プレ、二日目。
「帰る前に、八幡校のトップ知りたいでしょ」
「うん!」
「あなたならわかってくれるでしょ、このネクタイのセンスのよさ」
「うーん……」
あのとき、約束を守れて、よかった。
最後の漢字テスト。
キングに、なりたかったよね。
ここ、っていうときには必ず決めてみせる君が、珍しく、らしくなく、本当にらしくなく、あと一問足りなくて。
今までのこと認めて、それで終わりにすべきだったんだろうけど、僕だってなってほしかったから。君ほどキングに相応しい子は、あんまりいない気がしたから。だから、言っちゃった。
「まったく……俺の中ではもうイメージできてたんだよ、あなたが最後100点とって、笑うとこ。完璧なイメージだったのに。もー……まあ、いいわ。受かって」
君は「うん」と言った。迷わずに。
「うーん……」じゃなかった。
大丈夫だ、と心の底から思えたのは、あのとき。
あなたは「うん」を本当にする人だから。
入試、前日。
「よくここまで来たよ、本当に。正直、想像できなかった。一年前は。あのね、ちょっと失敗しても大丈夫なくらい、力はついたから」
「うーん……」
「何よ、気に入らないの?じゃあ失敗しないように頑張っておいで」
「うん。失敗しないと思う」
受話器を耳に当てたまま、僕は一瞬、言葉を失った。
「失敗しないと思う」。
あなたがどのくらい謙虚か、知ってるつもりです。
あれは君にとって、これ以上ない、自信満々の言葉。
あなたが辿り着いた強さと、あまりのカッコよさに、胸が震えた。
「あなた、負けるの嫌いでしょ」
「うん!」
君はいつだって期待に応えてくれて、期待以上の感動をくれて。
芯の強い、優しさのある人。
僕たちが喜ぶことを知っていて、たくさん喜ばせてくれた。
同時に、誰のためでもなく、勝つことにこだわり続けてきた。
あるいは、誰に対してでもなく。
あなたは、目の前の現実に、負けたくない人だった。
電話で自己採点の結果聞いたとき、たくさん泣いてごめんなさい。
カッコ悪かったです。
ただ、よかったなって、思ってさ。
今日。
掲示板から帰ってきた君の表情は、僕が描いていたのと少しも変わらなくて。
あまりにも想像のとおりで、夢じゃないかと思ってしまうくらいに。
あの笑顔。
鼻にしわを寄せる、独特の笑顔。
一度言ったけど、俺、その笑い方、大好きだからね。
何度も思い描いてきたように、君と、握手をして。
カメラに照れていた君のこと。
「どうしようね、抱き上げたりしてあげようか。お姫様みたいに。絵になるよ。広告に使われるかも」
「ううん、それはやだ」
何だよ、珍しく「ううん」って。
「何だろうな、豊川校にいられて、よかったわ。俺がね」
「ううん、あたしが、だよ」
ありがとう。
珍しく、「ううん」って。
君に「受かって」と言ったとき。
君に「内申5に戻すから」と言ったとき。
本当に伝えるべきだった約束は、「あなたを必ず受からせるから」って。
言えませんでした。
言いませんでした。
言う勇気がなかったからなのか、
言う必要がなかったからなのか、
よく、わかりません。
結局、最後まで。
僕の、胸のうちに。
身勝手に。
あなたを受からせたのは僕ではありません。
あなたを受からせたのは、あなたです。
だから、色々な意味で、不成立の、約束。
それでも、言います。
リエ、僕に約束を守らせてくれて、ありがとう。
ミもフタもない言い方だけど、あなたを、受からせたかった。
どうしても守りたかった、約束でした。
守ることができて、よかった。
ももこへ
2008年03月14日 箸本‘husky’竜也
ゆっくり休んでよ。
張りつめたまま、あなたは走ってきたもの。
僕の気持ちは、電話で言ったとおりです。
何か、思い出があるな、ももこには。
君は、僕と一緒に開拓塾に入った。
僕が塾講師として生まれて初めて授業をやったクラスにいたのが、君だった。
あの頃、僕はまだ二十三の若者(今だってそうだけど)で、夢中で授業をやって。
塾講師になった僕に初めて「かっこいい」って言ってくれたのも、あなた。
口裂け女が出るのが本気で怖くて、二川校の自動販売機の陰に誰も隠れてないか僕に確かめてほしがった、あなた。
臆病で。
国語は大丈夫だって、何の心配もないって、僕が言ってるのに、「後ろのほうで静かにしてるから」って泣きそうになりながら補習を受けたがった、あなた。
三回目の入試プレの日、電話で「大丈夫」って言ったくせに。
次の日、震える声で「何を勉強すればいいですか」って電話してきた、あなた。
二年前は、とても想像できなかった。
君が、こんなに頑張るようになるなんて。
頑張れるようになったから。
求めるものができたから。
目指すところがあったから。
だから、怖かったよね。
冬期講座、最終日。
僕は色々あって前日から寝てなくて、けっこうフラフラしながら、ギラギラの赤いシャツで二川校のフィナーレに寄って、三輪先生から「ももこが1000ポイントです」って聞いて、教室に走っていって、珍しく私服の君に、右手を差し出した。
君は真剣な顔で、迷わず、握手をしてくれた。
あのとき、自分が塾講師一年目で二川校に入ったときのことを、鮮やかに思い出した。
初めて授業をした日のこと。
初めて君に会った日のこと。
通り過ぎていった二年近い月日を思って、ちょっとクラッときて、でも、とにかく今日、ここでももこに会えて、よかったと。
ああ、俺は今の気分をずっとずっと忘れないんだろうな、と思った。
君と握手をして、別の校舎のフィナーレに向かうまでの道、サングラスを通して見ていた風景を、忘れません。
カーステレオからどんな曲が流れていたのかも、忘れません。
車にどんな感じで陽が差し込んでいたのかも、忘れません。
ももこ、お疲れさま。
もう怖がらなくていいんだよ。
君は頑張って、強くなって、そして、終わったの。
口裂け女なんか出ないから、ゆっくり眠って。
君が開拓塾を選んでくれて、よかった。
謝ったりしないで。どうか。君は、君自身を超えて、頑張った。
ももこ、君がいてくれて、よかったよ。
ありがとう。
ひとつだけなので
2008年03月10日 箸本‘husky’竜也
金銭欲が低い、と言われる。
ときどき。
欲しいもの、あるんだけど。
それなりに。
お金、必要だと思うんだけど。
それなりに。
人生が美しくなるような場面に、たくさん出会いたい。
一瞬の光景。
魂に、刻まれるような。
そのために必要な、お金と、モノと、時間と。
でも、とりあえず、いいです。
新しいパソコンとか車の修理とか、いいです。
腕時計とか春物のジャケットとか、いいです。
音楽とか小説とか映画とか、いいです。
美味しい食事とかお酒とか、いいです。
友達とか恋人とか、いいです。
全部、いいです。
僕の祈りが身勝手じゃなかったこと、ないですね。
でも、思いつきじゃないです。
「困ったときの」でもないです。
決めていたこと。
「もう、これ以上は」ってなったら、祈ろうと。
そう決めていました。
みんな、頑張ってくれたんですよ。
強くなったくれたんですよ。
たくさん応えてくれたんですよ。
たくさん笑ってくれたんですよ。
開拓塾を、信じてくれたんですよ。
いい子たちなんです。
たくさん教えてもらったんですよ、俺、講師なのに。
ひとつだけなので。
本当に、ひとつだけなので。
アンドロイド
2008年03月03日 箸本‘husky’竜也
っていうのは『ターミネーター2』のラスト・シーンでアーノルド・シュワルツェネッガー言った台詞。で、君のあだ名の由来。
夏の前だよな。
「どっちがいいの、ターミネーターとアンドロイド。あだ名として」
「どっちでも」
超素っ気ない即答。
超無表情。
君はいつもそう。
「いや」とか「別に」とか。
この前、一年間漢字テスト100点で、皆の前で表彰されたときだって、スーパー無表情。
漢字テストのときの君は、いつも頼もしかった。
休み時間、皆がテキスト見直しまくってるのに、君はイヤホンで音楽を聴いてるだけ。
「大丈夫なのかよ」と僕。
「もうやったし」ってスーパー無表情。
「さっき、ノートに書きまくってたに」って別の生徒。
密かな努力がばれて、ちょっと照れ笑いのアンドロイド。
で、またすぐに、スーパー無表情。
でも君は、開拓塾が大好き。
君は認めないかもしれないが、僕の中では、これは確定。
これが間違ってたら、俺は終わってるわ。
愛想なんかはまるでない。
涙を流すこともない。
でも、ハートがある。
合格ナビ、よく学校に持ってってるんだってな。
それを君に言ったら、「ああ」って言うだけかもしれないけど。
学校で文法のテスト、本当に凄かったんだってな。
それを君に言ったら、「別に」って言うだけかもしれないけど。
何が「絶対ハスキーのおかげ」だ、違うぞ。
君のおかげだ。
でも、ありがとう。
そういう言葉を僕に対しては絶対言わない君が好きだ。
絵が、浮かぶな。
笑顔じゃ、ないかもな。
「受かった?」
「うん」ってスーパー無表情。
それで、別にいいじゃん。君だから。
僕がどうして泣くのか、君にはよくわかってる。
丁寧に、な。
それだけだ。
僕がそう求めたなら、君は応えてくれるに違いない。
自惚れじゃない。
君を信じているだけだ。
受かっておいで。
心優しきアンドロイド。
休憩地点
2008年02月26日 箸本‘husky’竜也
完璧な長所とか、ないかもね。
どこかに、ほころびが出るものなのかな。
どう生きても。
お互いに似たところが、あったりしてね。
だから、ちょっとわかったのかな。
ただ、あなたのほうが優しい理由だから、余計に苦しくて。
僕はただカッコつけたいだけだから、迷う必要がなくて。
でも、あなたは、基準を持ってるから。
それは、強みだよ。
偶然だけど、僕もあなたとまったく同じ基準に忠実に生きて、ここにいる。
別に慰めにはならないだろうが、その基準にしたがって選んだことを後悔したことは、今のところ、ない。
あなたが泣いても、僕は変わりません。
ナミ、あなたがいい子だからじゃないです。
あなたが、あなただから。
休憩地点、って、嬉しかったよ。
そんな位置がいいや、俺。
出発点でも到達点でもなく。
一瞬でもあなたの休憩地点になれたことを、覚えていたいと思います。
あなたは、いつか、素晴らしいものに出会うでしょう。
らしく、生きて。
ナミ・ウォークで。
昨日みたいに。
最後は笑って。
見えなくなるまで手を振って。
キングス
2008年02月23日 箸本‘husky’竜也
十級から始まり、一級を超えて初段、そこから十段を積み重ね、さらに三つ上、最高の称号が、キング。
入試漢字をターゲットにした中三最後の漢字テストも終わり、僕の担当校舎では、四人のキングが誕生した。
アキマル。
独特の空気を持つ男。
一日に何キロも泳いで、その後平気な顔して塾まで歩いてくる男。
タフ、という言葉は、君のような男のためにあるんじゃないか。
君は、言葉で語らない。
黙って頷く。結果で語る。それだけ。
100点の答案を手渡された瞬間の君の顔を、見てた。
シャイな君が押し隠した「やったぜ!」っていう喜びと、「でも俺だから当然だし」っていう自信が入り混じった、いい顔だった。
他の誰でもない、アキマルの顔だった。
カッコよかったぜ。
ナカネ君。
中二のときから重ね続けた満点。
「絶対とってやる」みたいな闘志とか、そういうの、君は見せない。
「ナカネ君、100点!」
うつむいたまま、ちょっとだけ目を上げて、一瞬だけ、恥ずかしそうに小さく笑う。
でも、価値を持ち続けてくれたね、この小さなテストに。
君の頑張りは、揺るがないね。
中二のときの君を、覚えてる。
背、伸びたね。
受かりにいこう。
ここまで来たじゃないか。
ユータ。
秋、一度、君がHクラスにいた頃に、Jクラスにしか入っていない僕は、言った。
「俺の中では、もう描いてる光景があるの。二月、ユータが最後の漢字テストで100点とって、キングになって、俺が表彰する。俺が、この手で表彰する。それができないなんて冗談じゃねえぞ。わかったらJに上がってこい、必ず」
例の、困ったような申し訳なさそうな顔で頷いた君のこと。
消えてしまった子猫を想って、僕が憂鬱だった頃。道端で見つけた灰色の猫の写真を撮って、「これじゃないの?」って僕に見せてくれた君のこと。
あなたはそういうカッコいい優しさのある人だから、約束は守ってくれると、信じてた。
ありがとう。
君にこの手で賞状を渡せて、よかった。
ルミ。
色々あるね。
前に話したとおりで、俺たちは人間だから、色々ややこしいんだ。
帰れなくて。変えられなくて。
それでも、漢字テストの前の週に話したとき、「来週、漢字テスト頑張るね」と最後に言える君を、強いと思った。
あなたは、大丈夫。
後ろ向きになれる材料が腐るほどあっても、あなたは最後には前を向ける人だ。
信じていい。
誰も君を損なうことなんてできないさ。
みんな、おめでとう。
この、小さなステージで。
王冠も衣装も宝石も必要とせずに輝けた君たちが、キング。
僕にとって、最高のキングス。
イマジン
2008年02月04日 箸本‘husky’竜也
世紀の魔術師デヴィッド・カッパーフィールドは、そんなふうに言ったそうだ。
ときどき、本当に決定的なことというのは、目指すことでも実現することでもなく、「イメージを描くこと」なのではないか、という気がする。
テニスの試合中に不調に陥ると、よくわかる。
足が重かったり肩が開いてたり弱気になってたり、でも、一番やばいと思うのは、ネットに出てくる相手の脇をすり抜けるような必殺のパッシングのイメージが、浮かばないこと。
その「画」が見えない限り、ボールはネットを叩き続ける。
好調のときは、逆だ。イメージが明確にあり、身体がそれについていく。
イメージだよ。
これから一ヶ月、イメージを。
眠りに落ちる前、五分でいい。
とるべき問題を確実にとりきるイメージ。
思い切って飛ばせる、思い切って捨てられるイメージ。
本番、普段どおりに、落ち着いて、解くことだけに集中できるイメージ。
仮に、一問わからなくても、軽やかに次に進めるイメージ。
仮に、一教科の手応えが悪くても、次に引きずらないイメージ。
パニックに陥りそうなとき、一瞬の深呼吸のイメージ。「あー俺冷静」って。
120パーセントでも80パーセントでもない、100パーセントのイメージ。
僕たちの、勝利のための、イメージ。
僕にはもう見えている。
握手。笑顔。抱き合って、拳を突き上げて、空を仰いで、突き抜けるように、春。
最高の、イメージ。
そこにいるのはあなたであり、あなたであり、あなた。
「想像できたなら、それは実現したのと同じことなんだ」。
僕たちの想像の世界。
そこは、荒野のように広大な場所だ。
誰も俺たちを邪魔できないぜ。
続けて続けて続けて続けるんだ、俺たちのためのイメージを。
テイク・ケア
2008年02月04日 箸本‘husky’竜也
箸本は「生活感がない」とよく言われるが、しばしばコンビニに行きます。何を買うかって?確実なのは煙草と烏龍茶ですね。僕は一日に一定量以上の烏龍茶を飲まないと発作が起きる。
便宜的に、三件のコンビニを近い順からA、B、Cとしよう。
Aのメリットは、深夜でも現金が下ろせる点だ。僕は現金を持ち歩いていないと不安なので、これは非常に助かる。
ちょっと前、二川校の帰りに小澤先生と某ファミリー・レストランに行き、ファミレスなんだからクレジット・カードは使えるでしょと油断していて、「いいよ、誘ったんだから俺が出すって」とか偉そうなこと言ったものの、僕の切り札JCB(Jesus, Come on, Baby!の略、ではなく、普通のJCBカード)が使えず、小澤先生に払ってもらったときの、あの衝撃。忘れられない(小澤君ほんとごめん)。ああいう悲劇的な事態を回避するためにも、僕はある程度の現金を持ち歩いていたい。
Bにはできる限り行きたくない。
深夜、結構な確率で働いている店員がいるのだが、この男がムカつく。
「コンビニの店員がムカつくって言ったってタカが知れてるでしょ」と思われるかもしれないが、いやーほんとにムカつくぞ。あたかも「人をムカつかせて生きないと天国に行けない」という宗教の一派を信奉しているかのごとく、この男はことごとく僕をムカつかせる。じゃあ行かなけりゃいいじゃないかという話だが、僕のキャメル(ラクダの煙草)が置いてあるコンビニが近くにはないのだよ、このB以外。
そして、C。距離でいうと一番遠いんだけど、僕は基本的にここを選んで行くようにしている。
深夜、高確率でホーク(仮)という店員が出現する。この仮名に特に意味はない。強いて言うなら顔が鷹っぽいからである。この人が、いい。
年齢は僕の父親よりちょっと下かな、四十代後半?なかなかのハンサムだ。で、とにかく客によく話しかける。だいたい僕は見知らぬ人と話すのがプレッシャーで、よく喋るタクシーの運転手につかまると「勘弁してくれよ」と思ってしまうのだが、ホーク(仮)さんは非常に好感が持てる。書き始めると色々あるのだが、印象的な話を、ひとつ。
確か昨年十月の終わり頃、例によって発作を防ぐため、深夜、烏龍茶を買いに行ったときのこと。僕は釣り銭を受け取ってビニール袋をつかみ、ひとつ、咳ばらいをした。そのとき、ホーク(仮)さんが言ったのだった。
「お大事に」。
僕は「どうも」としか返せなかったが、なかなか言えないよな、と感心した。だいたい、ひとつ咳をしただけじゃないか。風邪かどうかもわからない。マスクを買ったわけでもない。そして結論から言えば、僕は風邪なんかひいていなかった。でも、そんなことはどうでもいいのである。彼だって確信があって言ったわけじゃないだろう、不確かな中で、それでも、ということなんだろう。そこがいい。
以来、煙草を除いて、僕はCのコンビニに通っている。遠回りになることもあるが、何だかそれが真っ当なやり方のような気がするのだ。僕はかなり世の中をなめて生きているという自覚があるが、自分の思う限りで、真っ当でありたい。
先日、深夜に烏龍茶(まったくどれだけ烏龍茶を飲むんだお前は)を買いに行くと、ホーク(仮)さんがマスクをしていた。これはもう確定である。任せろ、と僕は思った。釣り銭を財布に放り込み、袋をつかんで、今度は僕が言った。
「お大事に」。
ホーク(仮)さんは鷹のように微笑んだ。いや、鷹が微笑んだのは見たことないけど、きっと、あんな感じだ。
日々接する多くの人々。深く関わり合うこともなく、僕たちはただただ、通り過ぎてゆくだけだ。煙草の火を貸すだけのような間柄。それでいい。でも、そんな中で、何かひとつでも、優しいものを残しながら、温かいものを落としながら。そんな場面が、あるといい。
ホーク(仮)さん、いつもありがとう。あなたのコンビニはなかなかいいですよ。キャメルを置いていないことを除けばね。
ワガママな息子
2008年02月04日 箸本‘husky’竜也
母親は喜んだり安心したり、でも結局、彼女が一番言いたかったのは、最後の「風邪に気をつけてね」ということなんだろう。
父親は「竜也から言ってくるまで何も聞くんじゃねえ」と母親に釘を刺していたそうだ。彼は電話に出もしなかった。
「正月、帰るつもりないや」。
十二月の半ばにちょっと決心してそう電話したとき、母親は不満そうな素振りの欠片も見せなかった。
一年のうちでトータル一週間しか会いに来ない息子。
スピード違反で百日間も免許を取り上げられる息子。
小さなことも大事なことも、誰にもひとつも相談しないで決めてしまう息子。
故郷を捨ててしまった息子。
その全てを当たり前のように受け入れてくれる、父親と、母親と、弟。
あなたたちがどうしてそんなふうに生きられるのか、僕はときどき不思議に思う。
そうすべきだと信じて決めたことだから、謝りません。
ただ、これほどまでにワガママに育ててもらえて、僕は、心の底から幸せです。
刹那に、完璧に
2008年01月23日 箸本‘husky’竜也
十ヶ月ぶり。
これ、読んでるのかな?
間違いなく読んでるような気もするし、読んでるわけがないような気もする。
読めないなー、君のやることは。
君は相変わらず、「学校帰り」とか「水泳が」とか「先生、これ、みんなで」(ありがとう、美味しかったよ)とか「楽しい」とか短いセンテンスしか喋らなくて、ふよよよよよ(これはあなたに捧げる擬態語)とどこかへ行ってしまった。
「木曜にまたおいで、木曜なら俺、ここだから」って僕は言ったっけ?言ったよな?
何か一瞬で、今になると夢っぽくて、本当に君を見たのかどうか、怪しくなってる。
最近、洋楽一辺倒だったんだけど、あれから二川校に向かう車の中で、君が好きだった椎名林檎のバンド、東京事変の「私生活」を流し続けた。実はちゃんと新譜を買っている俺。
「生きているあなたはいつでも遠のいて僕を生かす」…
まったく、何てタイミングで来るんだ君は。
昨日の朝、君について書いた文章を読み返したばかりだった。
先週、豊田の岡崎先生が、僕が君に言ったのと同じ言葉を、僕にかけてくれた。
そして…ちょうど、一年前だね。
第三回の開拓模試が終わって最初の通常の月曜日。
君と、話したのは。
はっきり言って、すげー会いたかったんだけど。
あなたは不思議なくらいゆったりとしていて、ふよよよよよとしてるのに妙に礼儀正しくて、生活感とか現実感とかいったものが希薄なミステリアス・ガールだから、いつ会えるのか、全く予測がつかない。神出鬼没、みたいな。二日後の木曜日かもしれないし、一年後の月曜日かもしれない。
だから、今、言っておきます。
合格してくれて、ありがとう。
卒業ライブの後、君の手紙を読んで、僕は、ああ、もうこれでいいや、と思った。
これ以上、お前は自分の人生に何を望むんだと。
大げさなのはわかってる。
それが全部じゃないこともよくわかってる。
数えきれないプラスとマイナスがあって、仮にその合計がプラスになったとしても、それでいいというものじゃない。
ミキ、色々あるよね。
勝って負けて咲いて枯れて生きて死んで、何もかもが不完全なまま、僕たちは続いてゆく。
それでも、あの一瞬、
電話で君の声を聞いた瞬間、
本部で君の手紙を読んだ刹那、
僕の人生は完璧だった。
君が生きているのをちゃんと見られて、よかった。
手紙の約束、守ってくれたこと、ありがとう。
おかげで、とても大切なことを思い出した。
生きているあなたは、いつでも、遠のいて、僕を生かします。
元気で。
アイリ、アイリ、アイリ
2008年01月15日 箸本‘husky’竜也
君が「行きたい」とはっきり言ってくれて、嬉しかった。
土曜日、エアコンとこたつを同時に使う部屋で音楽を聴きながらパソコンに向かいつつ電子レンジを回していたらブレーカーが落ちて、真っ暗なキッチンに行ったら酒瓶につまずいて、洗濯中にとれたらしいシャツのボタンは見つからず、バスルームの電気が切れ、火のついた煙草が灰皿から落ちてこたつ布団が焦げ、パソコンのディスク・ドライブが完全に壊れた。
バッド・デイ。
ひとつため息をついて、で、君のことを考えた。
全部を知らない。
でも、あなたは、揺るがないね。
どんな一日にも、あなたは常にアイリなの。
ピアノが上手で、私服がお洒落で、優しい笑顔を絶やさないアイリなの。
たとえ冬が大嫌いで、「魂が暗く」なりそうでも。
ため息をついたのを、一度も見たことがない。
あなた、結構ちゃんと強いよ。
走れるよ。
昨日、ちょっと、つかんだと思うよ。
最後の問題、あの感じ。(1)と、(4)。
日本語としてオーケーか。ストーリーとしてオーケーか。
そこに集中して、アタックすること。
苦しんで、苦しんで、でも、手に入るときは一瞬で。
そういう一日もあるっていうこと。
楽しい一日、美しい一日、悪い一日、怖い一日。
それでも笑顔でいられるあなたが、アイリ。
三日前も、昨日も、たぶん、明日も。
あなたは、アイリ。
アイリ、アイリ、アイリ。
マイ・オウン・バーバー
2008年01月09日 箸本‘husky’竜也
日曜講座前日、東校の可愛い少年・少女たちにまた長い髪について苦情を言われるのかと思うとつらくなったのである、というのは半分冗談で(まあ半分は本気ですけれども)、単に、気分だ。僕は人生の一定の部分を気分で生きている。
みんなに「髪切らないの?」と聞かれるたびに、「入試が終わるまでは切らねえよ」とか言ってたのに、結果的に嘘になりました。ごめん。
タナセさん、あなたと同じくらいまで髪を伸ばすとかほざいて、すみませんでした。あなたへと続く道は長く険しく、僕には耐えられなかった。
前にもちょっと書いたが、僕は自分で髪を切る。数えればもう六年になる。今回も、深夜に安全カミソリを持ち出して、シャラシャラと髪を切り落としていった。
こういう話をすると、だいたい「何で?」と聞かれるのだが、まあ、色々とね。
床屋やら美容院やらに行くのが単純に面倒くさい、というのもある。
僕は髪を切るという行為を結構大切に考えているから、自分の一部分を他人なんかに切り落とされたくない、というのもある。この意味不明な感性。
苦い経験をした、というのも大きい。誰だって一度くらいあるんじゃないか、他人に切られてひどく失望した、というアレです。
自分で切る限り、責任は僕にしかない。自分以外の誰かを責めなくて済む。その感じが好きなのだ。
髪を切るにも哲学がある。
「やりすぎは禁物」とか、
「真の快楽はやりすぎの果てにしかない」とか、
「失ったものを追うな」とかね。
カッコいいでしょ。そうでもないか。そうですか。
「髪型を変えるように、人生を少しだけ変えたい」。
これは、僕が好きな映画監督の一人、ジョエル・コーエン(この人は基本的に兄弟のイーサン・コーエンと組んで映画を作っている)が監督した床屋が主人公の作品、『バーバー』のキャッチ・コピーである。
人生は、髪型のように簡単には変わらない。
しかし、髪型を変えることで、良くも悪くも、人生はちょっとだけ変わってしまう。
乱暴な言い方をすれば、それまでの外見の自分を一人、消すのである。
他人には任せたくないな。
まだまだ、僕は僕自身のバーバーであり続けよう。
シャラシャラシャラシャラ……。
ラスト・デイズの思い出
2007年12月28日 箸本‘husky’竜也
今でもゼロではないが、五日続けて書いたり一週間まるまる書かなかったり、日記と呼べるものではなくなっている。
一年間日記をつけ続けたのは、それまでの二十四年で初めてのことだった。
仕事から帰って、平均するとA4一枚くらい、カタカタと文章を打ち込んで、眠る。よくそんなことを一年も続けたものだと思う。
もう二度とやらないかもしれないが、一生のうちで一年くらいはやってみてよかった気もする。
日記の効用のひとつは、後になって読み返してみたときに、その頃の自分がどう生きようとしていたのか、何に生きようとしていたのかがわかることだ。
久しぶりに、一年前の十二月の日記を読み返した。
悲しい日記だった。
別にしみじみするわけではない。
帰りたいなんて思わない。どんな過去であれ。
でも、ああ、そうなんだな、と思った。
愚かだったけど、幼かったけど、二十四歳の男がどんなふうに生きようとしていたか。
そういう全てが、馬鹿らしかったり、痛かったり。
いつか、全てを笑えるようになるのだろうか。
僕はさよならを言うのが苦手だ。
それが、弱点なのだろう。
終わったものが過去、終わりつつあるのが現在、これから終わるのが未来。
全てはlast(最後)で、でも、全てはlast(続く)。
ラスト・デイズの思い出。
楽しいことを考えなくちゃいけない。
新しいラスト・デイズを、割らないように、踏みしめるように、歩いてゆきます。
そうでなくちゃならない。
いつだって、「今日」で何かが終わるから。
「次」を願い、「次」を信じ、それでも、ひとつひとつはただの最後でしかないという事実を、僕は忘れたくないのです。
向き合うべきものが目の前にある。
本当だよ。それで僕は生きてゆけてる。
だから。
だから、いつか、別の世界で会いましょう。
さよなら、ラスト・デイズの思い出。
ラララ冬期講座
2007年12月13日 箸本‘husky’竜也
冬、というのは、歯医者、ゴキブリ、T字カミソリと並んで、僕の最大の弱点のひとつである。
冬は、ぼんやりとした不安と、くすんだ過去ばかりを連れてくる。
自分の魂がゆっくりと死んでゆくような気がする。
後ろ向きになりそうなとき、僕が自分に言い聞かせるのは、楽しめよ、ってこと。
青臭い言い方になるけど、十代の頃、つまらなそうに生きている大人が嫌いだった。お前らみたいになってたまるかと誓った。
十代の頃に誓ったことは、何ひとつ忘れていない。
楽しまないのは、罪なことだ。
しっかりしろや俺。
不安でも弱ってても引きずってても、何であれ、楽しめないということにはならない。
それを証明するのはお前の義務だろ。
三年前、二十二の男は、仕事を選ぶにあたって、自分が楽しめるかどうかということ以外に、ほとんど何の価値観も入れずに全てのことを決めた。
阿呆だったんだろうな。
でも、それでよかった。
阿呆だけど、間違ってはいなかった。
難しいよ。楽しむっていうのは難しい。
でも、楽しんで。
必死の中で、不安な中で。
泣きそうだったり、折れそうだったり。
ギリギリだって。限界だって。
それでも、自分たちがマジだってことを。全力だってことを。
楽しんでほしいと。
それが、見たくてさ。
僕は全力で楽しんでみせる。
守り続けてきたんだもの、それは、曲げないよ。
どうか、楽しんで。
ラララって。
ラララララって。
セキサイリョウへの解答、星になる国語科
2007年12月04日 箸本‘husky’竜也
よく走ったな、この一ヶ月。自分で言っちゃダサいけど。
ちょっと見えた。「その先」が。
こんなもんか俺、とも思ったけど、どうせまた、今回の「その先」を破って、その先の先まで行っちゃうんだろう。さすが俺。
三輪さん、ありがとう。
たくさん、助けられました。
三輪さんが「ハスキーさんはこういうことについてお礼を言ってるんだろうな」と想像する限度をたぶん遥かに超えて、僕は多くの場面であなたに助けてもらった。本当にありがとう。
何だかんだで、いいコンビだと思うよ、俺たちは。
また深夜にビートルズの「ハード・デイズ・ナイト」を歌いながら、頑張りましょう。
ずっと前に、三輪さんが僕を心配してくれたとき、僕は「人はみな星になる。そのわけは、そのときわかる」とある歌を引用して、例によって意味不明にずるくかわそうとした。
そのとき以来、合言葉になったね。
「俺はたぶん、まもなく星になるな」
「マジすかハスキーさん、じゃあ一緒になりましょう、星に」
何だ俺たちは。阿呆か?いや、最高だ。
たぶんこれからも、何度も何度も星になりそうになりながら、僕たちは「その先」を見続けるのでしょう。
こんな大変な相棒だけど、三輪さん、付き合ってやってください。
星になるにはまだ早い。
でも、この一ヶ月、二人で美しい星をたくさん見たね。
俺たちは国語科。
満天の星を見続ける。
いつか星になるその日まで。ルル〜。
小さな雨の休日
2007年11月06日 箸本‘husky’竜也
僕は月に十五枚くらいという出鱈目なペースでCDを買いまくるのだが、考えてみれば、ロックでもパンクでもブルースでもカントリーでもポップスでもない音楽を、久しぶりに聴いた。
「ふるさと」なんて中学の頃は別に何とも思わなかったけれど、いざ自分に遠い故郷ができてみると、やっぱりちょっと感慨がある。僕は山でウサギを追ったことも川で小鮒を釣ったこともないけれど、雨に風につけても、ふるさとは忘れがたい。
特に三年生にとっては、きっと思い出になるんだろうな、って感じがして。その感じが、温かかった。
一組のみんな、おめでとう。
ルミ、本当によかったね。コパカバーナ、カッコよかったよ。
レイちゃん、いつもどおり手を振りながらパタパタ走ってきてくれて、ありがとう。
タツノ、僕を見つけたときのリアクションがちょっと可愛かった。
エミコ&アヤカ、抱き合って喜ぶのが遠くに見えた。二人とも受賞おめでとう。
僕は生徒の日常に触れるのがわりと好きだ。
塾以外でみんながちゃんと生きているのを見ると、ちょっと安心する。
それに、当たり前のことなのだけれど、塾がみんなの生活のほんの一部なのだということを忘れずにいたいと思う。何ていうか、謙虚さの問題。
いつもと変わらない笑顔も、普段からは想像つかないような笑顔も、どちらでもよくて、ともかくあなたが笑っていることに、ただ、ただ。
次の火曜日にもまた会えると。
それが絶対じゃないことはちゃんとわかってる。でも、そう信じないとやってられない。
また、会える。
必ず。
そして、難しいけど、なかなかそうなれないことがちょっと悔しいけど、僕たちの場所がみんなの最高の一部であれるように。一瞬でも。そうなれるように。
そんなこんなをぼんやりと思いながら、勤労福祉会館の駐車場を出て、カーステレオを入れ、小雨の撫でるパワー・ウィンドウを開け、フラテリスの「フラット・ヘッド」をガンガンに流して、バラッバッバラーラーラーラーと歌いながら、僕は僕のロックンロールな日常に戻った。
雨が降っても曇っていても、晴れも嵐も、一瞬の笑顔に、ひとしずくの涙に、心を奪われる。
そんなふうにして過ぎてゆく小さな休日は、どうしても思い出せない旋律みたいに美しく、ちょっと切なく。
軽やかに、柔らかに、優しく、儚く、それでも、強く、強く。
歌うように、奏でるように、生きていたいと、切に願う。
バラッバッバラーラーラーラー……
バーサス・モリオ
2007年11月06日 箸本‘husky’竜也
豊田、平戸橋いこいの広場に、四人の男たちが集った。
今回の仕掛け人である豊田の長老・岡崎、前日に中日の日本一を見届けた絶好調男・モンゴル吉田、開拓塾最速の男・小澤守生、そして開拓塾テニス界(狭いなー)のプリンス・箸本。
何の決戦かって?
そりゃテニスですよ。
結論からいこう。報告は結論が先。塾長の教えだ。
えー、豊橋本校、鷹丘校、三本木校、豊川校、中浜校、二川校、および先日の講座で入った南校と東校のみんな、見てるでしょうか?
勝ったぞー!!
2ゲーム先取の3ゲームマッチ。
以下、詳細!
【第一回トーナメント】
一回戦(ていうか準決勝)
○箸本 2−0 ●岡崎
○吉田 2−1 ●小澤
決勝
○箸本 2−0 ●吉田
【第二回トーナメント】
一回戦(実は準決勝)
○箸本 2−0 ●小澤
○吉田 2−0 ●岡崎
決勝
○吉田 2−0 ●箸本
【ちなみにダブルス】
○箸本・小澤 2−0 ● 岡崎・吉田
○岡崎・箸本 2−0 ● 吉田・小澤
いやー先々週くらいから一週間、生徒のみんなには予告しまくった。
そして大いに語ったね。小澤先生には必ず勝つと。そりゃ岡崎先生にも吉田先生にも勝ちたかったけど、何よりもモリオには負けられねえと。
因縁があった。ことの始まりは今年の春の開拓塾ソフトボール大会。
あのねー、
モリオすごすぎ。
だってほっとんどホームランだもの。何だそりゃ。何だ君は。しかも足が恐ろしく速い。ベースをそよ風のように一周して爽やかにハイタッチ。爽やかな笑顔。そして甘いマスク。僕と同じくらい。何だ俺は。つまり、
モリオすごすぎ。
ソフトの試合後、みんなで食事をしていたときに、確か塾長が聞いたのかな、「小澤君スポーツは何が一番得意なの?」
僕は別のテーブルで「どうせ野球でしょ」と思いながら聞いていたのだが、モリオ君はこう答えたじゃありませんか。
「そうですねー……
テニスですかね」
何ですって?
僕は平気な顔してお好み焼きを切っていたが、内心ではこう思っていた。
モリオめ〜。
だってさー今まで開拓塾の中では、まあ、「テニスといえば箸本君?」みたいな雰囲気があったわけよ。ですよね塾長?
それを、それを……
モリオめ〜。
小澤君はソフトが上手い。きっと野球も上手いに違いない。何かサッカーもできるんですって。そのうえ何だお前は、テニスだと?
しつこいようだが、
モリオすごすぎ。
ソフト、野球、サッカー、テニス。そうか。
しかし私はどうなのかと。
この私は。
わかる?
俺にはテニスしかねえわけよ!
ここで負けたら、私はいったい何?
何ていうか、開拓塾の中の?箸本の?存在意義?みたいな?ものが?半減?みたいな?そんな感じだったわけだ。やべえ。
どんな手を使っても勝たなきゃならねえ。
別に金も名声も賭けてない。
俺が賭けるのは誇りだけだ。
みたいな?ヒュー!!
だから10月20日の土曜日、こっそり練習もした。付き合ってくださった長神先生、ありがとうございます。またやりましょう。
そして、400人を超える生徒のみんなに予告しまくって自分を追い込んだ。僕はプレッシャーに対しては神のように強いから、結果的にはこれもよかった。
小澤君、強かった。
まず、サーブの速さ。ボレーの技術。思い切りのよさ。反射神経。そして何よりも、コート・カバリング能力の高さ。野球で言うと守備範囲の広さ。「マジかよ」というボールに追いついてくる。そこに絶対の自信があるんだろう、だからネットに出てくる。そして、頭を越すようなロブをジャンピング・スマッシュで叩いてくる。
僕の調子はよくなかった。
しのいで、しのいでのテニスになった。
必殺の変則バギー・ホイップ、名づけてハスキー・ホイップは封印し、ツバメ返し(と僕が勝手に呼んでいるフォアのスライス)でモリオの高速サーブを拾い、コースをついた。
チャンスのときも叩きにいかず、とにかくコーナーを狙ってポイントを稼いだ。
僕のテニスは力技じゃない。コントロールと緩急、ボールの変化が勝負だ。そして、ゲーム運びとメンタル、勝負勘。ここだけは十代の頃より強くなってる気がした。0−40と追い込まれても、冷静に6連続ポイントで切り返した。
さすがは開拓塾テニス界のプリンス。
僕が勝つほうにジュースを賭けてくれた石川リョーちゃん、シンヤ、ハルカ、「がんばってね」と爽やかに言ってくれたマスダ君、ノドカ、それからセイちゃん、サヤカ、ユーコ、前日の合唱コンクールで会ったときも応援してくれたルミ、他にもたくさんのベイビーたち、各校舎でけっこう盛り上がってくれて、楽しかった。サンキュー!!ファースト・サービスがフォルトになってちょっと弱気になったとき、セカンドのトスを上げた豊田の青空の向こうに、君たちの笑顔が浮かんだよ。マジな話。
そして、講座で聞いたらクラスの全員が「モリオが勝つ」に手を挙げた南校JSクラスのベイビーたち、見たか!だから勝つって言っただろうが!
イエス!!
企画してくださった岡崎先生、本当に楽しかったです。最後、いい試合でしたね。
吉田先生、二試合目、参りました。あなたは強かった。
久しぶりに、十代の日々を思い出した。
そうだよな、あの頃、俺はこんなにも負けたくないと思いながらボールを打ち続けていたんだよな。
小澤君、スポーツ選手でも何でもない二十五歳の男に、心の底からスポーツで負けたくないと思わせてくれて、ちょっと嬉しかった。ありがとう。君は強かった。
でも俺はもっと強かった。
拍手で迎えてくれ、ベイビーたち!
アディオス!!
サヨナラ・タイガース
2007年10月17日 箸本‘husky’竜也
もうかれこれ十五年以上、僕は細々と阪神タイガースのファンを続けている。
僕は群馬の生まれで特に地元というわけでもないのだけれど、どういうわけか気づいたときには阪神ファンだった。90年代前半(生徒のみんなには全然わからない話でごめんよ)、松岡先生や紅林先生には懐かしい話でしょう、中込・仲田・湯舟という黄金の先発陣が揃い、二塁にはいぶし銀の和田、遊撃手には新人王を獲得した平成の牛若丸こと久慈、四番・一塁にはここ十年の阪神の外国人選手を考えれば奇跡のようなオマリーという助っ人が座り、代打には真弓というカリスマが控えていた、古き時代からのファンである。
一番真剣に応援していたのは中学生の頃かな、今はもう正直、そこまでじゃない。どちらかといえば、「阪神勝つといいなー」と密やかに思っている程度で。周りは杉林先生といい阿部先生といい、中日ファンばっかりだから、あんまり派手に応援すると石を投げられるんじゃないかと恐れている部分もある。嘘だけど。
今年のタイガースはといえば、井川のメジャー入り、福原・安藤の出遅れ、今岡・浜中という五番候補の不調など、諸事情により、夏前までは、それこそひどい状態だった。交流戦はボロボロ。楽天よりもヤクルトよりも勝てなかった。六月の終わりには、首位巨人とは十二ゲーム差。あーあ。
十年連続Bクラス、四年連続最下位という暗黒の時代を経験している僕は、タイガースに関しては早々と諦める癖がついてしまっていて(まったくファンにあるまじき男だ)、「今年はもう無理でしょ」と思い込んでいた。
ところが。
いやー本当に度肝を抜かれた。
九月前半、藤川の十連投で十連勝、そして首位奪回。僕はずっと忘れないだろう。
だが、勝負どころの九月後半には、彼らはもう疲れ果てていた。
九月二十四日と二十五日の横浜戦、二夜続けて藤川が負け投手となった時点で、阪神のペナントは、事実上、終わった。
その日三本木校から本部に帰ってきた僕は、どこのファンというわけでもないのに常にその日のプロ野球の結果を把握している望月先生と話し、「今日で終わりですね」と言った。寂しかった。
祭りは、終わったのだった。
一ファンとしてならば、「よくがんばったじゃん」と言ってあげたい。
だって俺はもうとっくに諦めてたもの。ファンより先に諦めないってことは、当たり前かもしれないが、なかなか立派だよ。結構ワクワクしたし。応援し始めてから記憶にないくらい。阪神ファンじゃなくたって、楽しんだって。今年のペナントは面白かった。ある意味じゃ、それが全部でしょ。
そう言ってあげたい。
でも、言わない。
言えない。
それはたぶん、僕が阪神ファンである前に……まあ、そういうことだ。
最後には、勝たないと。
仮に、勝負が終わった後で、そこにいくら素晴らしい感情や記憶が残るとしても、それが残ることを確信していたとしても、でも、最後に勝つことに全てを駆けないと。
さよなら、今シーズンのタイガース。
また来年、というのは慰めにならないんだろう、今年しかなかったはずだから。プロだから。
よくやったと思うよ、心の底から。
でも、あなたたちは、負けたんだ。
言っとくけど、俺たちは勝つよ。