まだ私が小学生の頃。
近所に、小さな駄菓子屋さんがあった。
「山田屋」という看板が無ければ、ごく普通の民家だと思ってしまい
そうな一軒屋だ。
そこにはいつもおばあちゃんが1人で居た。
すごく度がきつそうな黒縁メガネ。
クルクルとした短い髪。
そんなおばあちゃんが大好きなのが、
おしゃべりと裁縫。
小学生の私を相手に、いつも何でもない話をしてくれた。
たまに店の奥の部屋にあがりこんで、おばあちゃんが裁縫するのを
見させてもらった。
話しながら裁縫するおばあちゃんと過ごす時間が好きだった。
ある日、おばあちゃんが私に二つの物をくれた。
手作りの、キーホルダーと財布。
オレンジ色のビーズを編みこんだものの中に、
小さな鈴を入れたキーホルダー。
何度も、手にとってビーズの輝きに見とれたり、鈴の音を楽しんだ。
ピンクのフェルト生地に、怪獣の柄がついた財布。
決して流行りのカワイイ感じのものではなかったけど、
いつも持ち歩いた。
それから、10年以上の月日が流れた。
母から、おばあちゃんが亡くなったと聞かされた。
その後、おばあちゃんが住んでいたという家を、見に行った。
当たり前だけど、電気もついておらず、ひっそりとしていた。
そして、山田屋は取り壊されて駐車場になっていた。
気がつくと、あれだけ大切にしていたキーホルダーと財布の行方が
分からなくなっていた。
ふと気がつくと、失くしてしまっている大切なものがある。
どんどん時間が過ぎていって、大事なものを落として
歩いてるのかもしれない。
気がつかなかったけど、それがぬくもりだったと
思わされるものがある。
それにたくさん気がつける人間になりたい。
もっと欲張るならば、それを人の胸に残せる人間になりたい。
まだまだそれにはほど遠い。
でも、少しでもあなたに近づきたい。
今でも私の心の鈴を鳴らしてくれる、あなたみたいに
人の胸にあたたかさを宿せる人になりたい。
歯が無くなってもひゃひゃひゃっと明るく笑って
あたたかい陽だまりみたいなおばあちゃんになってたい。
私は、今でもあなたのことをたまに思い出します。
その度に、あのオレンジの輝きがよみがえります。
ありがとう、おばあちゃん。
実家に帰ったら、もう一度キーホルダー、探してみよう。
山田屋のおばあちゃん
2008年03月03日 江尻 志保
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